この記事の要点
- 受取人の組み合わせで税金は相続税・所得税・贈与税に分かれる
- 相続税の非課税枠は相続人が受け取った場合のみ使える
- 受取人変更は保険会社への通知で可能、同意の要否は契約形態で変わる
生命保険の受取人欄を、契約したときのまま一度も見直していないという方は少なくありません。20代や30代で加入した契約なら、結婚、離婚、再婚、あるいは親の死去といった家族構成の変化を、すでに一つ以上経験している年代に差しかかっています。それなのに証券に書かれた受取人の名前だけは、契約した当時のまま止まっている、ということが起こり得ます。
受取人が誰かは、単に「誰にお金が渡るか」だけの問題ではありません。契約者・被保険者・受取人の組み合わせによって、受け取った側にかかる税金は相続税・所得税・贈与税のいずれかに分かれます。さらに相続税には非課税になる枠がありますが、これは受け取った人が誰であっても使えるというものではありません。
この記事では、受取人の設定によって税金の扱いがどう変わるのか、相続税の非課税枠が使える条件は何か、そして受取人を変更したい場合に何をどこへ届け出ればよいのかを、公的な一次情報にもとづいて整理します。特定の保険会社や商品を勧める記事ではありません。今日、手元の証券を1枚確認するための材料として使ってください。
この記事でわかること
- 契約者・被保険者・受取人の組み合わせで、税金は相続税・所得税・贈与税に分かれる
- 相続税の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は、相続人が受け取った場合に限られる
- 受取人の変更は保険会社への通知で行う。現受取人の同意は原則不要だが、被保険者が契約者と別人なら被保険者の同意が必要
生命保険の受取人、契約時から一度も見直していませんか
受取人欄の名前が契約した当時のまま止まっているのは、見直しを怠っているというより、点検の機会そのものがないためです。保険料は毎月払い続けていても、証券を見返す場面はほとんどありません。
契約時点では自然な選択だった受取人が、結婚・離婚・再婚・子どもの独立・親の死去といった変化を経て、今の家族構成とはすでにずれている可能性があります。このずれは自分では気づきにくく、証券を見返す機会がなければ、受取人欄の名前は契約したときのまま静かに残り続けます。すでに離婚した元配偶者や、先に亡くなった親の名前が指定されたままになっているケースも実際にあります。
まだ加入している保険を洗い出せていない方は、先に契約内容の確認手順を済ませてから、この記事で受取人の点検に進んでください。ここから先は、受取人の設定によって税金の扱いがどう変わるか、変更にはどんな手続きが必要かを順に見ていきます。
受取人で税金は変わる——契約者・被保険者・受取人の組み合わせ
死亡保険金を受け取ったときにかかる税金は、保険金額そのものではなく、契約者・被保険者・受取人の組み合わせによって決まります。同じ金額の保険金でも、誰が契約者で誰が受取人かによって税目が変わります。
国税庁の整理によれば(タックスアンサー No.1750)、パターンは大きく3つに分かれます。代表的なのは、契約者と被保険者が同じ人で受取人だけ別というケース、契約者本人が受取人になっているケース、契約者・被保険者・受取人がすべて別人というケースです。
| 契約者 | 被保険者 | 受取人 | かかる税金 |
|---|---|---|---|
| Aさん | Aさん | Bさん | 相続税 |
| Aさん | Bさん | Aさん | 所得税(一時所得) |
| Aさん | Bさん | Cさん | 贈与税 |
契約者本人が受取人になっている契約でかかる所得税は、一時所得としての扱いです(国税庁 タックスアンサー No.1490)。契約者・被保険者・受取人がすべて別人という契約でかかる贈与税は(国税庁 タックスアンサー No.4417)、3つの区分の中でもっとも税負担が重くなりやすく、この組み合わせになっていないかは確認しておく価値があります。自分の契約がどのパターンに当たるかは、証券に記載された契約者・被保険者・受取人の3つの欄を照らし合わせれば分かります。
なお、ここでいう契約者とは、実際に保険料を負担している人を指します。契約書上の名義人と実際に保険料を払っている人が異なる、いわゆる名義保険のケースでは、税務上は実際の保険料負担者を基準に判定されるため、この対応表どおりにならないことがあります。
名義保険の場合の注意点
証券に書かれた契約者の氏名だけを見て、対応表に自分の契約を当てはめると、判断を誤ることがあります。たとえば子の名前が契約者欄にあっても、実際の保険料を親の口座から払い続けているような契約では、税務上は保険料を負担していた人が契約者として扱われます。契約者欄の名前と、実際に保険料を払っている人が同じかどうかも、あわせて確認しておくと安心です。
相続税の非課税枠(500万円×法定相続人の数)が使える人・使えない人
死亡保険金のうち相続税の対象になる部分には、非課税になる枠があります。金額は500万円に法定相続人の数をかけた額で、この枠内であれば相続税はかかりません(国税庁 タックスアンサー No.4114)。
ただしこの非課税枠は、保険金を受け取った人が「相続人」である場合に限られます。法定相続人の範囲は配偶者と子、子がいない場合は父母、それもいない場合は兄弟姉妹という順序で決まっています(国税庁 タックスアンサー No.4132)。
相続放棄をした人が受け取った保険金には、この非課税枠は使えません。保険金自体は受取人固有の財産として受け取れても、非課税の扱いは相続人としての立場に対して認められているためです。同じ理由で、法定相続人に含まれない人(内縁の配偶者や孫など、代襲相続人でない人)を受取人にしている場合も、その人が受け取った分には非課税枠が適用されません。
非課税枠が使えないケース
- 相続放棄をした人が受け取った保険金
- 法定相続人に含まれない人(内縁の配偶者・代襲相続人でない孫など)が受け取った保険金
自分の契約の受取人が法定相続人に当たるかどうかは、証券の記載だけでは判断できないことがあります。老後資金全体の設計とあわせて確認したい方は、50代夫婦の老後資金はいくら必要かもあわせて確認してください。
死亡保険金は遺産分割の対象にならない、という性質
死亡保険金には、もうひとつ知っておきたい性質があります。相続税の計算上は「みなし相続財産」として課税対象に加えられます(国税庁 タックスアンサー No.4105)。ただしこれは相続税を計算するための扱いであり、民法上の遺産の一部になるという意味ではありません。
受取人が指定された死亡保険金は受取人固有の財産であり、判例上、原則として遺産分割協議の対象にならないとされています。預貯金や不動産のように、相続人どうしの話し合いで分け方を決める対象ではないのです。
死亡保険金の性質のポイント
- 相続税の計算上は課税対象に加える(みなし相続財産)
- 民法上は遺産分割の対象にならない(受取人固有の財産)
受け取りが早いという利点
この性質にはよい面もあります。遺産分割協議がまとまるまで時間がかかっても、受取人固有の財産である死亡保険金は、協議の結論を待たずに受け取れます。
受取人指定と公平性の論点
一方で、公平さの面では注意が必要です。たとえば子が2人いて、保険金の受取人を一方だけに指定していたとします。もう一方の子が「保険金も遺産に含めて均等に分けてほしい」と求めても、保険金は原則として遺産分割協議の対象外のため、話し合いだけで動かせる財産ではありません。ただし、受け取る保険金額が遺産総額に比べて著しく過大であるなど特段の事情がある場合は、最高裁判例により特別受益に準じて持ち戻しの対象となり得るとされています(最高裁平成16年10月29日決定)。受取人を1人に集中させる指定をするときは、この例外が問題になりうる金額かどうかも念頭に置いておくと安心です。
結果として、預貯金や不動産は均等に分けても、保険金だけは受取人に指定された1人へまとまって渡る、という配分になり得ます。均等に分けたい、あるいは特定の相続人に多く残したいという意向があるなら、遺産分割の話し合いに委ねるのではなく、受取人の指定そのもので調整するしかありません。
次の章では、その受取人を変更する具体的な手続きを確認します。
受取人を変更する手続き——同意は必要か、何を提出するか
受取人の変更は、保険契約者から保険者(保険会社)への意思表示によって行います(保険法第43条2項)。この意思表示が保険者に到達すると、通知を発した時にさかのぼって効力が生じます。
ただし通知が届く前に保険者が変更前の受取人へ保険金を支払っていた場合、その支払いの効力は妨げられません(同条3項)。つまり変更の意思表示自体は契約者が行った時点で成立していても、保険会社への通知が実際に届くまでは、会社が変更前の受取人へ支払ってしまうリスクが残ります。
現在の受取人の同意については、条文に明文の定めはなく、通説では原則として不要と解されています。受取人は保険金を受け取る権利をまだ確定的に持っているわけではなく、変更されても不利益を主張できる立場にないためと説明されます。
被保険者の同意は必要か
一方、死亡保険契約では、受取人の変更に被保険者本人の同意が必要です(保険法第45条)。契約者と被保険者が同じ人であれば、変更の意思表示をする本人が被保険者でもあるため、この同意は事実上満たされます。
契約者と被保険者が別人の契約では、契約者の意思表示だけでは変更できず、別途、被保険者本人の同意を得る必要があります。被保険者の生死によって支払われる保険金の受取人を、被保険者の同意なく動かせないようにするためです。
受取人変更に必要な同意のまとめ
- 現受取人の同意:原則不要
- 契約者と被保険者が同じ人:被保険者の同意は事実上満たされる
- 契約者と被保険者が別人:被保険者本人の同意が別途必要
- 遺言による変更:可能だが、契約者の死亡後に保険者へ通知するまで対抗できない
遺言による変更は可能か
遺言によって受取人を変更することも認められています(保険法第44条)。ただし遺言による変更は、契約者が死亡した後に相続人などが保険者へ通知するまで、保険者に対抗できません。通知が遅れたり届かなかったりすれば、保険会社は変更前の受取人へ支払ってしまう可能性があります。
このため実務上は、遺言に頼るよりも、生きているうちに保険会社所定の変更手続きを済ませておくほうが確実です。手続きは保険会社ごとに窓口・郵送・オンラインなど方法が異なるため、契約している保険会社に確認してください。
受取人が先に亡くなっている場合はどうなるか
受取人を変更しないまま、指定していた受取人本人が先に亡くなっているケースもあります。証券上の名前を更新しないまま年月が経つと、この状態に気づかず放置されがちです。
保険法では、保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が新たな保険金受取人になると定められています(保険法第46条)。指定していた1人ではなく、その人の相続人全員に権利が移る形です。
条文自体は「相続人全員が受取人になる」と定めるのみで、各相続人が受け取る割合までは定めていません。実務上は法定相続分の割合で按分するという考え方が広く採られていますが、契約や保険会社の扱いによって異なる場合があるため、該当するケースでは保険会社に確認してください。
結果として、もともと1人に残すつもりだった保険金が、意図していなかった人数・割合に分かれて渡る可能性があります。証券に書かれた受取人が今も存命かどうかは、点検の際にあわせて確認しておく価値があります。
今日できる確認手順4ステップ
受取人の点検は、思い立ったその日に4つの手順で進められます。特別な準備は要りません。
1. 手元にある保険証券や「契約内容のお知らせ」をすべて集める
2. 証券ごとに契約者・被保険者・受取人の氏名と続柄を書き出す
3. 書き出した内容が、今の家族構成と合っているかを1件ずつ仕分ける
4. 合っていない契約だけ、保険会社に受取人変更届を請求する
証券が見当たらない契約がある場合は、生命保険協会の生命保険契約照会制度で、契約の有無を確認する方法があります。
保険会社に連絡する前に、次の3点を質問として整理しておくと確認がスムーズです。
- 受取人に指定できるのはどの続柄の範囲か
- 内縁関係にある人を受取人に指定できるか
- 複数の受取人を指定して、受取割合を決められるか
これらは保険会社や契約によって扱いが異なり、証券や約款の記載だけでは判断できません。窓口や電話で直接確認してください。
受取人の点検を終えたあと、保障の金額や解約・減額まで見直すかどうかは別の判断です。解約と減額どちらを選ぶかで手順を確認してください。
まとめ
受取人の点検は、保障を増やすか減らすかとは別の、今日の契約1枚に対する確認作業です。証券に書かれた契約者・被保険者・受取人の3者を照らし合わせ、今の家族構成と合っているかを見るだけで、ずれの有無は分かります。
ここで注意したいのは、相続税がかかるかどうかは保険金の額だけで決まらないという点です。相続税は基礎控除や遺産総額全体との関係で判定されるため、保険金が非課税枠に収まっているからといって、相続税そのものが発生しないとは限りません。この記事で扱ったのは、あくまで保険金にかかる税金の区分と非課税枠の考え方までです。
この記事の結論
- 受取人は契約者・被保険者との組み合わせで税目(相続税・所得税・贈与税)が変わる
- 相続税の非課税枠は相続人が受け取った場合に限られ、誰でも使えるわけではない
- 相続税がかかるかどうかは保険金単体でなく、基礎控除・遺産総額全体で決まる
保険会社の窓口に相談すると、受取人の変更手続きと一緒に、保障内容の見直しや別の保険への入り直しを勧められることがあります。窓口の説明だけでその場で決めず、まず受取人の点検という自分の目的に絞って手続きを済ませてください。
相談先を選ぶ段階まで進んだ方は、50代のお金の相談先はどこがいいかで、相談窓口ごとの収益構造の違いを確認してから動くことをおすすめします。


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