自営業の50代に退職金はない ─ その前提で老後資金をどう設計するか

お金の相談

50代になると、まわりから退職金の話をよく聞くようになります。受け取り方、企業年金との組み合わせ、退職所得控除。ただ、自営業やフリーランスとして働いてきた人にとって、これはそもそも自分には関係のない話です。退職金という制度が、最初から用意されていないからです。

以前、退職金がない自営業の老後資金は、誰に相談するかで、会社員と自営業では老後資金の「前提」が違うこと、そして相談先をどう見取ればいいかを整理しました。

この記事では、その前提を踏まえたうえで、退職金の代わりとして検討される3つの制度 ── 小規模企業共済、国民年金基金・付加年金、iDeCo ── の性質の違いを比較し、老後資金をどう設計するかを見ていきます。特定の金融商品や相談窓口を勧める記事ではありません。

この記事の要点

  • 小規模企業共済は事業をやめたときの一時金
  • 国民年金基金・付加年金は公的年金の上乗せ
  • iDeCoは自分で運用する私的年金

結論を先に ─ 3つの制度は、役割が違う

先に結論を置きます。小規模企業共済、国民年金基金(付加年金)、iDeCoは、どれも「退職金の代わり」と語られますが、性質はそれぞれ違います。同じ土俵で比べてどれか一つに絞るというより、役割の異なる3本柱として捉えたほうが実態に近いといえます。

廃業や引退のタイミングでまとめて受け取りたいのか、公的年金の土台に積み増したいのか、自分で運用しながら育てたいのか ── 求めているものによって、向いている制度は変わります。この違いを知らないまま「どれか一つを選べばいい」と考えると、老後資金の設計が偏ってしまいます。

自営業には、制度的に積み上がる仕組みがない

会社員の退職金は、長く勤めることで、会社の制度として自動的に積み上がっていきます。自営業には、この「自動的に積み上がる」仕組みがありません。何年働いても、経験や信用は積み上がっても、それが自動的に老後の一時金に変わるわけではないからです。

だからといって、会社員の退職金があれば安泰、というわけでもありません。退職金は取り崩していけば減っていくお金で、放っておいて増えるものではないからです。自営業と会社員の違いは、老後の原資を自分で意識してつくる必要があるかどうか、というところにあります。自営業は、この「つくる」を自分の手で担うしかない立場にいます。以下で見る3つの制度は、そのための代表的な選択肢です。

小規模企業共済 ── 事業をやめたときの一時金

小規模企業共済は、独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する制度で、個人事業主や小規模企業の経営者・役員などが加入できます。

掛金と受け取り方

掛金は月額1,000円から70,000円の範囲で、500円単位で自由に設定でき、加入後も増額・減額ができます。掛金の全額が所得控除の対象になり、課税所得を抑える効果があります(小規模企業共済等掛金控除)。

受け取り方は、一括・分割・一括と分割の併用の3種類です。一般に、一括で受け取る場合は退職所得として、分割で受け取る場合は公的年金等の雑所得として扱われるとされています(実際の扱いは条件によって変わる場合があるため、最終的には公式情報や税理士等の専門家に確認してください)。事業をやめた後にまとまった資金として受け取れるという点で、3つの中では退職金にいちばん近い性格の制度です。

任意解約するときの注意点

一方で、注意しておきたい点もあります。事業をやめる前に、自分の都合で任意に解約する場合、掛金の納付月数が240ヶ月(20年)未満だと、受け取れる解約手当金が、それまでに納めた掛金の合計額を下回るとされています。つまり、早期に任意解約すると元本割れする可能性がある制度です。長く続けることを前提にした制度である、という点は、他の2制度と比較する際にも押さえておきたいところです。

国民年金基金・付加年金 ── 公的年金の上乗せ

国民年金基金は、国民年金第1号被保険者(自営業者やフリーランスなど)が、老齢基礎年金に上乗せする形で加入できる制度です。掛金の上限は月額68,000円で、iDeCoにも加入している場合は、その掛金と合わせて68,000円以内におさめる必要があります。給付は、終身型・確定型の老齢年金と、遺族一時金です。

付加年金は、国民年金の保険料に月額400円を上乗せして納めることで、老齢基礎年金に「200円×納付月数」を上乗せできる仕組みです。掛金は小さいものの、国民年金基金とは同時に加入できません(どちらか一方を選ぶ制度です)。一方、iDeCoとの併用は可能とされています。

どちらも、事業をやめた後の一時金ではなく、公的年金の延長線上で、生きている限り(または一定期間)受け取り続ける性格の制度です。

iDeCo ── 自分で運用する私的年金

iDeCoは、20歳以上65歳未満の公的年金の被保険者であれば加入できる私的年金の制度です。自営業者(第1号被保険者)の場合、掛金の上限は、国民年金基金や付加年金の保険料と合算して月額68,000円以内となるとされています。

掛金は全額が所得控除の対象になり、運用益も非課税で再投資されます。受け取りは60歳以降で、一時金・年金・その併用が選べ、一時金で受け取る場合は退職所得控除、年金で受け取る場合は公的年金等控除の対象になるとされています。

小規模企業共済や国民年金基金との大きな違いは、掛金を自分で運用商品に配分し、その運用結果によって将来受け取る額が変わる点です。増える可能性がある一方、運用次第では目減りする可能性もあります。

3つの制度を、どう組み合わせるか

ここまでの性質を、簡単に整理します。

制度 掛金の目安 受け取り方 何で増減するか
小規模企業共済 月1,000〜70,000円(自由に設定・増減可) 一括・分割・併用 加入期間・掛金額
国民年金基金/付加年金 国民年金基金は月68,000円が上限(iDeCoと合算)/付加年金は月400円 終身・確定の年金+遺族一時金 加入時の型・口数、納付月数
iDeCo 国民年金基金・付加年金と合算で月68,000円以内 一時金・年金・併用(60歳以降) 自分で選ぶ運用の結果

※掛金の上限や税制優遇の内容は、2026年時点の一般的な制度内容です。制度は改正されることがあるため、加入を検討する際は必ず公式サイトや専門家に最新の内容を確認してください。

3つとも税制優遇があるという点は共通していますが、「事業をやめたときの一時金」「生きている限り受け取る年金の上乗せ」「自分の運用結果で増減する私的年金」と、狙いが違います。だから、どれか一つに全額を寄せるのではなく、老後の自画像 ── 何歳まで働き、その後どんな暮らしをしたいか ── から逆算して、3つにどう配分するかを考えるのが実務的です。

事業の資金繰りの都合で掛金を止めたり減らしたりしやすいのはどれか、逆に長期で固定して積み立てたいのはどれか、という視点も、配分を決めるときの手がかりになります。

相談先を選ぶときに、気をつけたいこと

ここまでの制度は、いずれも会社員向けの退職金相談とは別の土俵にあります。会社員向けの退職金相談は、多くの場合「すでにある一時金をどう受け取るか」が中心で、企業年金や退職所得控除の話が主戦場です。自営業の場合は、そもそも原資を自分でつくる段階から考える必要があり、相談先に求める専門性も変わってきます。

小規模企業共済や国民年金基金は、それぞれの制度の窓口で仕組みを確認できますが、事業全体の資金繰りや老後の生活設計とあわせてどう配分するかは、家計全体を見てくれる相談先の領域になります。

相談先をどう選ぶかについては、50代のお金の相談先はどこがいい?収益構造で見る4類型と選び方で、相談相手を見極める軸を整理しています。

あわせて、相談に何を持って行けばいいかはお金の相談に行く前に ─ 何を整理し、何を持っていくかを参考にしてください。

まとめ ─ 3本柱の性質を知ってから、配分を考える

自営業の50代には、会社員のような退職金はありません。ですが、原資を自分でつくるための制度は複数用意されています。まとめて受け取る一時金型、公的年金に積み増す上乗せ型、自分の運用結果で増減する私的年金型。向いている使い道も、抱えているリスクの種類も違うので、「どれか一つ」に絞るより、老後の自画像から逆算して組み合わせを考えるのが現実的です。

制度の細かい条件や最新の上限は、加入前に必ず公式サイトや専門家で確認してください。この記事が、退職金のない働き方の中で、自分なりの老後資金の柱をどう組み立てるかを考える手がかりになればと思います。

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