この記事の要点
- 凍結は一括停止でなく取引ごとの意思確認停止
- 任意後見・代理人手続きは判断能力があるうちだけ選べる
- 低下後も日常生活自立支援事業と法定後見は使える
親が認知症になると、銀行口座は使えなくなるのではないか——70代、80代の親を持つ50代の方から、こうした不安をよく聞きます。実際に窓口で「ご本人の意思確認ができないと、お引き出しはできません」と言われ、介護費用の支払いに困って検索した方もいるかもしれません。
多くの方が想像する「凍結」と、実際に銀行の窓口で起きることには、仕組みの違いがあります。
この記事では、全国銀行協会や法務省、厚生労働省などの公的情報をもとに、口座が動かしにくくなる仕組みと、代理人手続き・日常生活自立支援事業・任意後見・法定後見という4つの手段を、親の判断能力があるうちしか選べないものと、低下した後でも使えるものに分けて整理します。それぞれのできることと限界も、あわせて確認していきます。
親が認知症になると口座は凍結されるのか
「口座が凍結される」という言い方が広まっていますが、これは通称であり、法律上「凍結」という制度があるわけではありません。実際に止まるのは、本人の意思確認ができない状態での個々の取引です。
全国銀行協会は2021年2月18日、「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と関係団体等との連携強化について」で、銀行が親族などによる代理取引にどう対応するかの考え方を示しました。
ここで示されているのは、本人の意思が確認できない場合に、窓口が取引ごとに慎重な確認を行うという実務の方向性です。
大口出金や不動産売却で起きること
つまり、通帳やキャッシュカードが手元にあっても、大口の引き出しや解約、不動産の売却などの場面では、本人の意思確認が求められる可能性があります。逆に言えば、こうした事態への備え方の中には、親の判断能力があるうちにしか選べない手段もあります。次の項目から、いつどんな場面で動かしにくくなるのか、そして今のうちに何ができるのかを順に見ていきます。
口座はいつから、どんなきっかけで動かしにくくなるのか
「認知症と診断された日」から急に何かが起きるわけではありません。実際に動かしにくくなるのは、窓口や電話で本人の意思確認が取れない取引に直面したタイミングです。
典型的なのは、定期預金の解約や口座の解約、まとまった額の引き出しなど、窓口で本人の意思確認が求められやすい取引です。通帳やキャッシュカードを子が預かっていても、それだけでは代理権を示したことにはなりません。
動かしにくくなる典型パターン
全国銀行協会が示す考え方では、本人に認知判断能力があるかどうか、そして法定代理・任意代理の権限があるかどうかの組み合わせで、窓口の対応が分かれます。基準になるのは金額の大小そのものではなく、代理権を確認できるかどうかです。上に挙げた取引が典型例になりやすいのも、金額が大きいからではなく、本人の意思確認や代理権の確認を伴う手続きだからです。
不動産の売却などの契約行為も同様の性質を持ちます。判断能力が低下すると、本人単独では有効な契約を結べなくなるのが法律行為一般の考え方であり、これは銀行取引に限った話ではありません。売却代金の受け取りや契約手続きが必要になる場面では、判断能力の低下が進んでからでは対応が難しくなります。
代理人カードで対応できる範囲
これとは別に、日常的な少額の入出金に使える代理人カード等のサービスは銀行ごとに独自に用意されており、対応できる範囲は銀行によって異なります。この点が、次の項目で見る「判断能力があるうちしか選べない手段」につながっていきます。
親の判断能力があるうちしか選べない手段、低下した後でも使える手段
4つの手段は、いつ使えるかという時期で大きく2つに分かれます。銀行の代理人手続きと任意後見契約は、親の判断能力があるうちにしか選べません。任意後見契約は、本人の判断能力があるうちに公正証書で結ぶ契約です(日本公証人連合会「任意後見契約」)。判断能力が低下してからでは、この契約自体を結ぶことができず、後から慌てて用意することはできません。
一方、日常生活自立支援事業と法定後見は、判断能力が低下した後からでも使える手段です。それぞれの対象範囲や限界は、後の項目でくわしく説明します。
| 手段 | 選べる時期 |
|---|---|
| 代理人手続き(銀行) | 判断能力があるうちのみ |
| 任意後見契約 | 判断能力があるうちのみ |
| 日常生活自立支援事業 | 判断能力が低下した後も利用可 |
| 法定後見 | 判断能力が低下した後も利用可 |
まず確認するのは、親が今どちらの段階にいるかです。元気なうちに動くほど、選べる手段は多く残ります。
元気なうちに結べる「任意後見」と銀行の「代理人手続き」
代理人手続きと任意後見は、できることの範囲が大きく異なります。それぞれの限界も、事前に知っておく価値があります。
- 代理人手続き(銀行の代理人カード等)
- できること:日常的な入出金など、比較的少額の取引を家族が代わりに行える。
- 限界:対応できる取引範囲は銀行ごとに異なり、全国で統一されたルールがあるわけではない。大口の出金や解約まで任せられるかどうかは、取引先の銀行に個別に確認する必要がある。
- 任意後見契約
- できること:本人の判断能力があるうちに、財産管理や契約行為を任せる相手をあらかじめ選び、公的な契約として残せる。
- 限界:契約は公証役場で公正証書として結ぶ必要があり、手数料がかかる(日本公証人連合会「任意後見契約」)。判断能力が低下してからでは、この契約自体を結ぶことができない。
代理人手続きは日常の入出金を補う手段、任意後見は将来の財産管理をあらかじめ託す手段——役割が違うため、両方を検討しておく価値があります。どちらも「まだ大丈夫」と先延ばしにしているうちに、選択肢そのものが失われていく手段です。
判断能力が低下した後でも使える「日常生活自立支援事業」と「法定後見」
判断能力が低下してしまった後でも使える手段が、日常生活自立支援事業と法定後見です。この2つは、準備が間に合わなかった場合の受け皿になります。
日常生活自立支援事業は、判断能力が不十分な人の日常的な金銭管理を、社会福祉協議会が支援する公的事業です(厚生労働省「日常生活自立支援事業」)。預金の出し入れなど生活に必要な範囲の支援が対象で、大口の解約や不動産売却まで任せられる制度ではありません。
法定後見は、成年後見制度の枠組みの中で、家庭裁判所が後見人等を選ぶ手続きです。申立てには診断書や戸籍謄本などの書類が必要で、審理には一定の期間がかかります(裁判所「後見開始の申立て」。保佐・補助はそれぞれ別ページに手続きが掲載されています)。書類の具体的な内容や審理にかかる期間の目安は、申立て先の家庭裁判所に確認する必要があります。
法定後見が決まると、財産管理は後見人を通す形になり、日常生活自立支援事業より対応できる範囲は広がりますが、その分、家族だけで自由に動かせる部分は狭まります。
まず相談すべき窓口は地域包括支援センター
どちらの制度も、まず相談すべき窓口は近くの地域包括支援センターです(厚生労働省「地域包括ケアシステム/地域包括支援センター」)。手続きの入り口が分からない場合は、お金の相談を無料でできる公的窓口から探すこともできます。
民事信託(家族信託)という選択肢——公式な費用基準がない領域
ここまでの4つの手段とは別に、「民事信託(家族信託)」という方法を耳にすることがあります。親の財産管理を家族に託す契約で、任意後見や法定後見とは異なる仕組みです。
民事信託には、代理人手続きや任意後見のような統一的な公的窓口がありません。公式に定められた費用基準もなく、依頼先や信託の内容によって条件が大きく変わります。
そのため本記事では、民事信託を他の4つの手段と同列にはおすすめしません。検討する場合は、司法書士・弁護士・信託銀行など、民事信託を専門に扱う専門家への個別相談が前提になります。
専門家への相談が前提になる理由
金額や必要な期間は、公的な一次情報で確認できる基準がないため、本記事では断定しません。他の手段で対応しきれない事情がある場合の選択肢の一つ、と捉えておくとよいでしょう。
口座が動かせなくなると、介護費用は誰が立て替えるのか
ここまでの4つの手段は、いずれも「口座を動かせる状態を保つ、または取り戻す」ための備えです。しかし備えが間に合わず、親の口座に一時的にアクセスできない期間が生じると、介護施設の入居金や月々の利用料は待ってくれません。
その間、支払いを立て替えるのは多くの場合、同居または近くに住む50代の子です。立て替えた分が後で親の資産から戻る保証はなく、そのまま自分の老後資金を取り崩す結果になりかねません。誰がどこまで負担するのかという線引きは、口座の手続きとは別に考えておく必要があります。
負担そのものを軽くする公的制度もあります。高額介護サービス費は、1か月に支払った介護サービスの利用者負担が一定額を超えた場合に、超えた分が払い戻される仕組みです(厚生労働省)。所得や世帯の状況によって負担の上限は変わるため、具体的な金額は自治体の窓口で確認する必要があります。
負担を軽くする公的制度もある
立て替えの負担をどちらがどこまで持つのか、公的制度をどう組み合わせて抑えるのかは、親の介護費用は誰が負担するのかで、4つの線引きとして整理しています。
まとめ——50代の今、確認しておく4つのこと
ここまで見てきた4つの手段は、いずれも「親の判断能力があるうちに動けるかどうか」で選べる範囲が変わります。今日から何を確認すればよいか、次の4点に整理しました。
- 親の口座がどこの銀行にいくつあるか
- 取引銀行に代理人手続きの制度があるか、あるならどこまでの取引に対応するか
- 任意後見を検討するなら、判断能力があるうちという期限をいつまでと考えるか
- 介護費用が必要になったとき、原資をどちらがどこまで立て替えるかの線引き
この4点のうち、任意後見・代理人手続き・立て替えの線引きは、本人の意思確認が取れるうちでなければ決められません。口座の所在は後から調べる方法もありますが、親に確認できるうちのほうが早く正確です。銀行や制度ごとに条件が異なり、後から確認しようとしても、本人の意思確認ができなければ手続きが進まないためです。
すべてを一人で調べて判断しきれない場合や、そもそも誰に相談すればよいか迷う場合もあります。そのときは、50代のお金の相談先はどこがいい?収益構造で見る4類型と選び方から、状況に合った相談先を探すこともできます。


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