退職金は一時金と年金、どちらで受け取るべきか|税金の仕組みで考える判断軸

お金の相談

退職金の受け取り方について、会社から「一時金」「年金」「併用」の中から選ぶよう案内されると、多くの方がまず金額を比べようとします。ですが、この選択で本当に見ておくべきは、金額そのものよりも税金のかかり方の違いです。同じ退職金の総額でも、受け取り方によって課税の仕組みがまったく別のものになるからです。

先に結論めいたことをお伝えすると、「一時金と年金、どちらが得か」に一律の答えはありません。勤続年数や退職後の他の収入によって有利不利が変わるため、個別の数字を見ないまま決められる話ではないのです。この記事では、その判断のために知っておきたい「税金の仕組みの違い」と「有利不利を左右する判断軸」を整理します。

この記事の要点

  • 一時金は退職所得控除、年金は公的年金等控除で扱いが異なる
  • 一時金と年金、どちらが得かは一律の答えがない
  • 有利不利は勤続年数と他の年金収入で決まる

一時金で受け取る場合 ─ 退職所得控除という仕組み

退職金をまとめて一時金で受け取ると、税務上は「退職所得」として扱われます。ここで使われるのが「退職所得控除」です。

退職所得控除の特徴は、勤続年数が長いほど控除の枠が大きくなるという点です。長く勤めた人ほど、税負担が軽くなるように設計されている仕組みだと理解しておくとよいでしょう。さらに、控除を差し引いた後の金額に対しては、通常さらに一定の圧縮計算が加えられます。この二段構えの仕組みによって、退職金は他の所得と比べて税負担が抑えられる位置づけになっています。

ただし例外もあります。役員などとして勤めた期間が短い一部の退職金については、この圧縮計算が適用されないケースがあります。自分の退職金がどちらに当たるのかは、勤務先の退職金規程や源泉徴収の担当部署に確認しておくと安心です。

なお、控除額の具体的な計算式や金額は制度として定められていますが、税制は改正されることがあるため、この記事では数字までは踏み込みません。「勤続年数に応じて控除枠が変わる」「控除後の金額にさらに圧縮がかかる」という骨組みを押さえておけば、次の判断に進めます。

年金形式で受け取る場合 ─ 公的年金等控除という仕組み

一方、退職金を年金形式で分割して受け取ると、税務上の扱いが変わります。この場合は「雑所得」に区分され、国の年金(厚生年金や国民年金など)と合算したうえで、「公的年金等控除」という別の枠で所得が計算されます。

ここで押さえておきたいのは、退職金を年金形式で受け取ると、自分がすでに受け取っている(あるいはこれから受け取る)公的年金と合算して課税額が計算されるという点です。退職金の年金部分だけを切り離して考えることはできません。公的年金等控除の額は、受け取る人の年齢区分や年金収入の合計額によって変わる仕組みになっており、収入が増えるほど控除の効き方も変わってきます。

つまり、年金形式が有利かどうかは、退職金の額だけでなく、公的年金をいくらもらっているか(もらう見込みか)によっても左右される、ということです。ねんきん定期便やねんきんネットで年金の見込額を先に確認しておくと、この判断がしやすくなります。

併用という選択肢も視野に入れる

会社によっては、一時金と年金を組み合わせて受け取る「併用」を選べる場合があります。一時金部分は退職所得控除、年金部分は公的年金等控除と、それぞれ別の仕組みで計算されるため、どちらか一方に全額を寄せるよりも税負担が分散しやすくなる可能性があります。

ただし、これも「併用すれば必ず有利になる」という単純な話ではありません。会社によって併用できる比率が決まっていることもありますし、年金部分を長期間受け取ることで、公的年金と合算した収入が想定より高い水準で続く年が出てくることもあります。併用が選べる場合は、一時金と年金それぞれの仕組みを理解したうえで、比率も含めて検討する価値がある選択肢だと捉えておくとよいでしょう。

有利不利を分ける判断軸 ─ 勤続年数と他の年金収入の有無

ここまでの内容を踏まえると、一時金と年金のどちらが有利かを左右する要素は、主に次の2つに整理できます。

  • 1つ目は勤続年数です。退職所得控除は勤続年数が長いほど枠が大きくなる仕組みなので、勤続年数が長い方ほど、一時金で受け取ったときの控除の効きがよくなりやすい傾向があります。
  • 2つ目は、退職後に見込まれる他の年金収入の有無と金額です。公的年金の受給額が大きい方が退職金まで年金形式で受け取ると、合算後の雑所得が想定より膨らみやすくなります。逆に公的年金の見込額がそれほど大きくない方であれば、年金形式で受け取っても、公的年金等控除の枠に収まりやすいケースもあります。

このように、「一時金の方が得」「年金の方が安心」といった一律の答えを出せる話ではなく、自分の勤続年数と、退職後の年金収入の全体像を並べて初めて、判断材料がそろいます。この2つの数字を手元に用意したうえで相談すると、税理士やFPとの話も具体的に進みやすくなります。

受け取り方を確認する前段階で、退職金にまつわる他の準備事項もあわせて整理しておきたい方は、退職金を受け取る前に相談しておきたい5つのことで、受け取り方以外の論点もまとめています。

まとめ ─ 金額ではなく、仕組みで比べる

退職金の受け取り方は、一時金なら退職所得控除、年金形式なら公的年金等控除と、まったく異なる税金の仕組みが使われます。そのうえで、どちらが有利かを分けるのは、主に勤続年数と、退職後に見込まれる他の年金収入の有無です。

金額の大きさだけを見て直感的に選ぶのではなく、この2つの仕組みと、自分の勤続年数・年金見込額を並べて考えることが、後悔しない受け取り方の選び方につながります。一人で判断がつかない場合は、自分の数字を持ったうえで税理士やFPに相談することも選択肢です。相談先ごとの違いや選び方については、50代のお金の相談先はどこがいい?収益構造で見る4類型と選び方で整理しています。

なお、受け取り方を決めたうえで、まとまった額をどう運用に回すかで迷う場合は、退職金を受け取った後の運用相談はどこへもあわせて参考にしてください。

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