50代に入ると、老後資金の話が急に自分ごとになります。ただ、会社員向けの情報を読んでも、どこか他人の話に聞こえる。退職金の受け取り方、企業年金の出口、役職定年後の設計 ── そのどれもが、自分には最初から用意されていないからです。
私自身、会社員として働いていた期間の厚生年金加入実績はあります。ただ、独立後は会社員時代のように厚生年金が積み上がるわけではなく、今の働き方には勤務先から受け取る退職金も用意されていません。だから「自営業の老後資金は誰に相談すればいいのか」という問いは、私自身がずっと抱えてきたものでもあります。
この記事では、まず「何を・誰に相談するか」の見取り図を先に示し、そのうえで、退職金のない50代が相談の前に自分で整理しておくことを、順番に整理します。
この記事の要点
- 自営業の老後資金は「原資をどう作るか」から始まる
- 相談前に「入りと出・老後の当て・事業の出口」を整理する
- 相談先は肩書きより「収益構造」で選ぶ
まず、相談内容別の見取り図
老後資金の相談は、ひとつの窓口ですべてが片づくものではありません。相談したい中身によって、向いている相手が変わります。最初に、相談内容と相談先のざっくりした対応を出しておきます。
| 相談したいこと | 主な相談先 | 担当外・限界 |
|---|---|---|
| 年金記録・受給見込み額の確認 | 年金の公的窓口 | 税務・資産運用は担当外 |
| 自営業者向けの年金・共済制度 | 各制度の公式窓口 | 家計全体の設計は担当外 |
| 税金・所得控除・法人化、廃業の税務処理 | 税理士 | 資産運用・生活設計全般や事業の出口設計は専門外の場合がある |
| 家計・年金・保険・資産形成の全体整理 | FP(ファイナンシャルプランナー) | 税務判断・事業承継の実務は別の専門家が必要 |
| 投資商品の具体的な選択 | 金融機関・証券会社・運用相談先 | 生活設計全体・税務は別途確認が必要 |
| 事業承継・売却・廃業など事業の出口設計 | 事業承継・M&A・税務・法務の専門家 | 一人で全領域を完結できるとは限らない |
大まかには、この対応を頭に入れておけば「まず誰に聞けばいいか」の見当はつきます。ここから先は、なぜ自営業だとこの振り分けが必要になるのか、そして相談の前に自分で何を用意しておくべきかを見ていきます。
会社員と自営業では、老後資金の「前提」が違う
前提を合わせておきます。会社員の老後資金の相談は、多くの場合「もらうお金をどう扱うか」という設計です。退職金をどう受け取り、どう取り崩すか。企業年金と厚生年金をどう組み合わせるか。土台になる原資が、ある程度は用意されている前提で話が進みます。
自営業の場合、この土台がありません。基礎年金(国民年金)はありますが、会社員の厚生年金にあたる上乗せは、自分で用意しないかぎり存在しない。退職金もない。つまり自営業の老後資金は、「もらうお金をどう扱うか」ではなく、「そもそもの原資を、どう作るか」から始まります。ここが会社員との決定的な違いです。
収入構造にも問題がある
さらに、働き方によっては収入構造そのものにも問題があります。私は経営の現場を長く見てきましたが、本人の労働に売上の多くを依存している自営業では、自分が動けなくなると収入も止まりやすい。風邪をひけば止まり、家族の用事が入れば止まり、気力が落ちれば止まる。
もちろん、従業員が回す事業や、店舗・会員制の仕組み、不動産や知的資産のように、本人が動かなくても収入が続く形を持つ自営業者もいます。ただ、多くの一人事業は前者に近く、老後は、その「自分が動く」ができなくなっていく時期です。だから老後資金は、単なる貯蓄額の問題ではなく、「自分が動けなくなっても、いくら入ってくるか」という問題として考える必要があります。
「退職金がない」とは、制度的に原資が積み上がらないこと
もう一歩、構造を見ておきます。退職金がないというのは、努力や経験が何も残らないという意味ではありません。預金や投資、不動産、事業価値、顧客基盤を自分で積み上げている自営業者もいます。
ただ、会社員の退職金のように、長く働くことで制度的・自動的に老後の原資が積み上がる仕組みは、自営業には最初から用意されていません。20年、30年と働いて能力を磨き、判断力をつけても、その一部が退職金や企業年金という形で外に積み上がるわけではない。原資を作るなら、自分で意識して手を打つしかない ── これが、退職金のない働き方の弱点です。
念のため付け加えると、退職金があれば安泰、という話でもありません。会社員でも退職金は取り崩していく原資で、放っておけば減っていきます。ある人にもない人にも、問いは同じです。動けなくなったあと、何が入ってくる状態を作れるか。自営業は、その問いに早めに、そして自力で向き合わざるを得ない立場にいる、というだけの違いです。
相談する前に、自分で整理しておく3つのこと
相談先を探す前に、自分の側で持っておきたい材料が3つあります。ここがそろっていると、どのタイプの相談先に行っても話が早く進みます。
1つ目:今の「入り」と「出」の数字
1つ目は、今の「入り」と「出」の数字です。 事業の月の手取り、生活費、そして事業が細ったとき・止まったときにいくらまで耐えられるか。自営業は収入に波があるので、平均ではなく「悪い月」を基準に見ておくと現実的です。
そのうえで、公的年金の見込み額を差し引いて、老後に毎月いくら足りなくなりそうか ── 年間でざっくりどのくらいか ── の当たりだけでもつけておくと、相談の解像度が一段上がります(正確な金額は次の材料と相談先で詰めれば十分です)。
2つ目:動かなくても入ってくるお金の当て
2つ目は、老後に自分が動かなくても入ってくるお金の当てがあるか、です。 自営業の第1号被保険者が使える老後資金の枠には、国民年金に上乗せする制度や、退職金の代わりになる共済のような仕組み、自分で積み立てる私的年金の制度などがあります。
掛金の扱いや上限、税制の優遇はそれぞれ制度ごとに決まっているので、「自分はどれを、どこまで使っているか/使えるか」を棚卸ししておきます。細かい条件や最新の上限は、公式の情報や専門家に確認するのが確実です。
3つ目:事業そのものの「出口」
3つ目は、事業そのものの「出口」をどう考えているか、です。 引退したあと、事業を誰かに引き継ぐのか、たたむのか、細く続けるのか。自分が動かなくても回る形に近づけられれば、事業それ自体が老後の収入源になり得ます。
逆に、自分が止まれば同時に止まる事業のままなら、その前提で老後資金を厚く積む必要があります。ここは老後の自画像 ── 70代の自分が、どこで、どう暮らしていたいか ── から逆算して考えると、優先順位が決めやすくなります。
この3つは、誰かに答えを出してもらうものではなく、相談のテーブルに自分が持って行く材料です。ここが空のまま相談に行くと、相手も一般論しか返せません。
相談先を選ぶ軸は、「肩書き」より「収益構造」
見取り図で相手の得意分野が見えても、「では、どのサービスに申し込むか」の段階でまた迷います。ここで効くのが、肩書きや知名度ではなく、その相手が何で収益を得ているかで見る、という軸です。
どの相談先も、悪意で向き合っているわけではありません。ただ、自分たちの収益の出どころに近いテーマが得意領域になり、そこから遠いテーマは手薄になりやすい面はあります(これは本記事の見方です)。だから「無料相談」と書いてあっても、それがなぜ無料で成り立つのか(相談料以外のどこで収益を得ているのか)を最初に確認しておくと、提案がどちら寄りになりやすいかの見当がつきます。
収益構造で比較した記事
この「収益構造で相談先を見る」考え方は、お金の相談先全般に共通する物差しです。相談先のタイプを収益構造の切り口で整理した記事があるので、具体的にどのサービスかを比べる前に、こちらで軸を持っておくと選びやすくなります。
また、退職金がある会社員側の相談先の選び方は、退職金の相談はどこにすべきか(銀行・証券・保険・FPの違い)で整理しています。自営業とは前提が違いますが、相談先の得意・不得意を構造で見る考え方は共通しているので、あわせて読むと相談先の全体像がつかめます。
まとめ ── 一人に全部を任せず、論点ごとに使い分ける
自営業の老後資金の相談で大事なのは、一人の相手にすべてを丸投げしないことです。まず自分の側で、今の入りと出・老後に動かなくても入ってくるお金の当て・事業の出口、この3つを整理する。そのうえで、論点ごとに相手を使い分けます。
- 年金の事実確認(記録・見込み額) → 年金の公的窓口
- 自営業者向けの年金・共済制度 → 各制度の公式窓口
- 税金・所得控除・法人化、廃業の税務処理 → 税理士
- 家計・年金・保険・資産形成の全体整理 → FP
- 投資商品の具体的な実行 → 金融機関・証券会社
- 事業承継・売却・廃業など事業の出口設計 → 事業承継・M&A・税務・法務の専門家
順番としては、最初に全体像を整理し、そのうえで必要な論点ごとに専門家を使い分ける。相手を選ぶときは、肩書きより「何で収益を得ている相手か」を見る。この進め方だと、迷いが減ります。
私自身、退職金のない働き方の側で、労働収入の上に、自分が動かなくても入ってくる収入の層をどう作れるかを試している最中です。答えが出ているわけではありません。ただ、同じように老後資金を考えている方にとって、相談の前に何を整理し、誰に何を聞けばいいのかを見取り図として持っておくことは、遠回りを減らすはずです。同じ位置にいる方の参考になればと思います。


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