ねんきん定期便に書かれている年金の見込額は、そのまま口座に振り込まれる金額ではありません。そこには「額面」と「手取り」の違いがあり、実際の振込額は額面から所得税(復興特別所得税を含む)、個人住民税、介護保険料、国民健康保険料または後期高齢者医療保険料が差し引かれた後の金額になります。
ただし、すべての人がこの4つすべてを引かれるわけではありません。年金の種類(老齢年金か、遺族・障害年金か)、年齢、年金額によって、対象になるかどうかは変わります。
この記事では、年金から何が・なぜ引かれるのかを国税と地方税・自治体の保険料に分けて整理し、自分が引かれる側にあたるかどうかの見分け方、そして額面から手取りをおおまかに計算する順序を、公的機関の公表情報にもとづいて確認していきます。老後資金の計画を、額面ではなく手取りベースで見直すための出発点にしてください。
ねんきん定期便の見込額は「額面」——年金から引かれ得る4つ
日本年金機構が送るねんきん定期便に記載されている年金の見込額は、そのまま口座に振り込まれる金額ではありません。この金額はいわゆる「額面」であり、実際の振込額はここから税や保険料が差し引かれた後の金額になります。
引かれる理由は、公的年金等が税法上「雑所得」として扱われ、課税の対象になるためです。年金は給与と同じように、受け取る段階で一定の税や保険料が源泉徴収・特別徴収される仕組みになっています。この違いを知らずに額面のまま老後の収支を見積もると、毎月使える金額を実際より多く見積もってしまいます。
ねんきん定期便のどの欄に見込額が書かれているかは、「年金は結局いくらもらえるのか」の記事で確認できます。本記事では、その額面から先、実際に何がどれだけ引かれ得るのかを見ていきます。
額面から引かれ得るのは、大きく分けて次の4つです。
- 所得税(復興特別所得税を含む)
- 個人住民税
- 介護保険料
- 国民健康保険料または後期高齢者医療保険料
このうち所得税は国税、個人住民税・介護保険料・国民健康保険料または後期高齢者医療保険料は、市区町村など自治体が徴収する地方税・保険料にあたります。額面のうちどれだけが引かれるかは、年金の種類や年齢、年金額によっても変わります。次の節で、この4つを「国税」と「地方税・自治体の保険料」に分けて、対象になる年齢とあわせて整理します。
4つの内訳を「国税」と「地方税・自治体の保険料」に分けて整理する
前の節で挙げた4つは、徴収する主体で2つのグループに分かれます。所得税は国が徴収する国税、個人住民税・介護保険料・国民健康保険料または後期高齢者医療保険料は市区町村など自治体が徴収する地方税・保険料です。徴収する主体が違うため、確認先の窓口も異なります。
所得税は年金の支払い段階で源泉徴収され、復興特別所得税もあわせて差し引かれます(日本年金機構「年金にかかる税金」)。個人住民税は公的年金からの特別徴収の対象になり、市区町村が徴収します(総務省 地方税制度)。
自治体の保険料は年齢で区分が変わります。介護保険料は65歳以上の第1号被保険者が対象です(厚生労働省 介護保険制度)。医療保険は65〜74歳なら国民健康保険料、75歳以上になると後期高齢者医療制度の保険料に切り替わります(厚生労働省 国民健康保険/後期高齢者医療制度)。
| 項目 | 所得税(復興特別所得税を含む) | 個人住民税 | 介護保険料 | 国民健康保険料または後期高齢者医療保険料 |
|---|---|---|---|---|
| 区分 | 国税 | 地方税 | 自治体の保険料 | 自治体の保険料 |
| 対象年齢の目安 | 源泉徴収の対象となる年金額に達している人 | 公的年金からの特別徴収の対象になる人 | 65歳以上(第1号被保険者) | 65〜74歳は国保、75歳以上は後期高齢者医療 |
保険料の実際の金額は自治体や所得によって異なるため、ここでは全国一律の額として示していません。自分の対象年齢や金額は、市区町村から届く通知書で確認する必要があります。
自分は引かれる側か——年金の種類・年齢・年金額での判定条件
前の節で整理した4項目は、全員に同じように課されるわけではありません。自分が対象になるかどうかは、次の3つの条件で判定できます。
- 年金の種類:老齢年金は課税対象ですが、遺族年金は非課税です(国税庁 タックスアンサー No.1605)。障害年金も非課税です(日本年金機構「障害年金や遺族年金を受けている人にも公的年金等の源泉徴収票は送付されるのでしょうか。」)。遺族年金・障害年金のみを受け取っている場合、所得税・個人住民税は引かれません。
- 年金額が源泉徴収の基準に達しているか:所得税の源泉徴収が行われるかどうかには年金額の基準があり、65歳未満と65歳以上で基準額が異なります(日本年金機構「年金にかかる税金」)。基準に満たない年金額であれば、源泉徴収の対象になりません。
- 年齢が各保険料の天引き開始年齢に達しているか:前の節のとおり、介護保険料は65歳から、医療保険料は65〜74歳が国民健康保険、75歳以上が後期高齢者医療制度の対象です。天引き開始年齢に達していなければ、その保険料は引かれません。
この3つのうちどれに当てはまるかで、引かれる項目の数は人によって変わります。老齢年金を65歳以上で受け取っていれば、4項目すべてが対象になり得ます。
一方、遺族年金だけを受け取っている場合や、年金額・年齢が基準に届いていない場合は、対象外の項目が出てきます。自分がどの条件に当てはまるかは、ねんきん定期便や年金振込通知書、市区町村からの通知書で確認できます。
額面から手取りを概算する計算順序
ここまでの内容を、額面から手取りに至る1本の流れとして並べ直します。以下は本記事の試算の順序であり、公式の確定額を保証するものではありません。実際の金額は源泉徴収票や市区町村からの納入通知書で確認してください。
- ①額面:ねんきん定期便に記載された年金の見込額
- ②公的年金等控除を差し引く:65歳未満か65歳以上か、年金の収入額によって控除額の計算式が変わります(国税庁 タックスアンサー No.1600 の速算表で確認できます)
- ③所得控除を差し引く:基礎控除は合計所得金額に応じて金額が変わり、令和7年分以降は改正されています(国税庁 No.1199)。社会保険料控除は、実際に支払った、または年金から天引きされた金額の全額が対象です(国税庁 No.1130)
- ④課税所得:②までを引いた残りから、③を差し引いた金額
- ⑤所得税額を出す:課税所得に所得税の税率表を当てはめ、復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)を加えます(国税庁 No.2260)
- ⑥住民税・社会保険料を差し引く:前の章で整理した個人住民税、介護保険料、国民健康保険料または後期高齢者医療保険料を差し引きます
- ⑦手取り:ここまで残った金額が、額面に対するおおよその目安
控除額・税率の区分や基準は年分によって変わります。計算の際は、必ず公開日時点の国税庁の現行ページで適用年分を確認してください。ここに示した順序や式は概算の手順であり、そのまま自分の年金額に当てはめて確定額とみなさないでください。
手続きで変わる部分——扶養親族等申告書と確定申告不要制度
ここまでの計算順序は、扶養親族等申告書を提出している前提で進めています。提出の有無によって、年金から源泉徴収される所得税の額は変わります。
日本年金機構から毎年送られる「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」は、配偶者控除や扶養控除などを源泉徴収の段階で反映させるための書類です。提出しないと、これらの控除が反映されないまま源泉徴収され、天引きされる所得税が本来より多くなる場合があります。
一方、公的年金等の収入が年400万円以下で、かつ公的年金等にかかる雑所得以外の所得が20万円以下であれば、所得税の確定申告そのものが不要になります(国税庁 タックスアンサー No.1600)。
ただし、申告不要制度の対象でも、申告しないほうが得とは限りません。医療費控除や社会保険料控除の追加分など、還付を受けられる要素がある場合は、確定申告をしなければ還付は受けられません。「申告しなくてよい」と「申告しないほうが得」は、別の話として分けて考える必要があります。
手取りで考え直すべき判断——繰下げ受給・就労継続・退職直後の医療保険
ここまでの計算順序は、受給開始年齢や医療保険の選び方をいったん脇に置いて進めてきました。これらの判断は、額面ではなく手取りで考え直すと結果が変わる場合があります。
繰下げ受給は年金額そのものを増やす選択ですが、損益分岐年齢は額面ベースで語られることが多くあります。税・保険料が増えた分、実際の損益分岐は手取りベースでずれる可能性があります。詳しい条件は繰下げ受給の記事で確認してください。
60代前半も働き続ける場合、在職老齢年金の対象になると年金の一部が支給停止になることがあります。これは年金額が決まる段階の話です。決まった額から税・保険料が引かれる本記事の内容とは、発生する段階が異なります。両者を混同しないよう、在職老齢年金の記事で仕組みを確認してください。
退職直後にどの医療保険へ入るか(任意継続・国保・扶養)は、受給が始まる前の選択です。受給後に年金から医療保険料が天引きされる仕組みとは、対象になる時期が異なります。退職直後の選び方は退職後の健康保険の記事で扱っています。
50代の今やること3ステップ
ここまでの内容を、実際に手を動かす3つのステップに落とし込みます。
- ①ねんきん定期便で額面を確認する:見込額はあくまで額面であり、そのまま使える金額ではありません。まず自分の額面がいくらかを確認します。
- ②本記事の順序で手取りを概算する:公的年金等控除と各種所得控除を差し引き、住民税・保険料をさらに引いた後の金額をおおまかに出します。控除額や税率は年分で変わるため、公開日時点の公式情報で確認してください。
- ③老後の費目別支出と突き合わせる:出した手取りの概算額を、実際にかかる生活費と照らし合わせます。
費目ごとの内訳は老後資金を5つの費目に分解する記事、夫婦世帯での試算手順は50代夫婦の老後資金はいくら必要かの記事で確認できます。
この3ステップを踏むことで、額面だけを見ていたときには気づかなかった収支のずれを、受給が始まる前に把握できます。
まとめ
ここまで、ねんきん定期便の見込額が「額面」であり、そこから所得税・個人住民税・介護保険料・国民健康保険料または後期高齢者医療保険料という4つが引かれ得ることを確認しました。額面のまま老後の収支を見積もると、実際に使える金額を多く見積もってしまいます。
引かれる項目は誰にでも同じではありません。老齢年金か遺族・障害年金か、年金額が源泉徴収の基準に達しているか、年齢が各保険料の天引き開始年齢に達しているかによって、対象になる項目の数は人ごとに変わります。
額面から手取りへは、公的年金等控除・各種所得控除を差し引いて課税所得を出し、そこから所得税・住民税・社会保険料を差し引くという順序で概算できます。扶養親族等申告書を提出しているか、確定申告不要制度を使うかによっても、実際に手元に残る金額は変わります。
自分の年金額や年齢を当てはめれば、おおよその手取りはご自身で概算できます。ただし、繰下げ受給や在職老齢年金、退職金の受け取り方などの判断が重なると、条件同士が絡み合ってきます。
自分の書類だけでは計算しきれない、または判断がつかない場合は、相談先の選び方を整理した記事から、状況に合う相談先を探してください。


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